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2015年7月22日水曜日

プロフェッショナル~ボウズの流儀~

プロボウズの朝は早い。まず天気予報のチェックから始める。

「自然が相手ですからね。常に新しい情報を手に入れないと、無駄足になることもありますから」

よしと呟き、彼は出発した。

 


※この話は(おおむね)フィクションです。

 

──今日はどちらへ?

「駿河湾で好調なショアジギングをやってみようかと…。夜明けから行ける日も限られているので、こういう日はあえて遠くにいくことにしています。普段ですと移動時間でタイムアップしてしまいますからね」

──釣れるのでしょうか?

「それは行かないと、やってみないとわからないですね。なにしろ自然(誇張)が相手ですから、仕方ない所もあります」

 

彼は釣れない理由を『自然』のせいにしているわけではない。プロボウズ達は皆『テクニック(腕)』になによりも自信を持ち、『知識』は啓蒙する釣り人を参考にしている。しかし彼はその一括りにされるのを嫌う。それでも否定はしないようだ。

我々は彼がプロボウズに傾倒するようになった理由とは何か、その経緯を知ろうとした。

「釣り歴は長いのですが、これまでルアーは「釣れない」ってイメージが強かったんですよ。でも遠州灘沿岸でヒラメが釣れると知って、こんな近くにいいステージがあるんじゃないかと気付いて……。本格的に始めようかな──って時に釣れちゃったんですよね。それからドップリですよ(回想シーン付き)」

「……始めた年は好調だったんですけどね。プロボウズになってからは全然、さっぱりですね。ちょっと諦め気味かもしれませんね、ハハハ……」

嗜虐的に聞こえる言葉だった。自棄に至る嘲笑は室内を凍らせ、彼はそれきり口をつぐんだ。

 

「……着きました」

空が白み始めた頃、彼が車を停めた場所からは波の音が聞こえた。

「これはまずいですね。おそらく浪高3m近くあるんじゃないかと……今日は厳しいかもしれません」

(クソッ!また◯フー波予報に騙された)といきり立ち、スマートフォンを起動して何かを調べているようだ。

「ここで無理そうなので他の場所候補を考えています。あとTwitterで報告を、と。あまりやらないんですけどね」

──準備を始めたようですが、やるんですか?

「ここでやれないと他ではおそらく無理ですからね。出来ないってわけじゃないので様子見がてら浜インしてみます。安全第一ですからね、無理はしませんよ」

プロボウズはマナーにうるさい。釣り場の保全と安全、なにより環境に対して気を使う。──それは当然であると誰もが思うが、ルアーのロストを極力回避し、ゴム製品を使わず、海洋資源を減らさないプロボウズは環境にエコなアングラーなのだ。

 

──波が高いですし、泥濁りなのですが。

「雨が続いてたのでなるべく河川の影響を受けないようここを選びましたが、想定を大幅に上回る泥濁りですね。波は私にとってまだマシなのですが、この濁りではどうしようもなさそうですね。帰りましょうか」

悲しそうな目をしていたが、足取りはどこか軽い。

「釣りは無理そうなので予定を変更して、ぶらぶら海を見ながら帰りましょう。なぁに、プロボウズは健康のためでもありますからね。ウェーダーを履いて砂浜を歩く、これだけでも体型維持に役立っています。生きている限り、また次がありますよ」

 

 

 

 

(♪Progress)

 

プロボウズは誰にでもなれるわけではない。

”釣れる”アングラーに需要はあれど、”釣れない”アングラーに光は届かない。誰もが”釣る”ことを目指すが、そう簡単なことではない。プロボウズはそれを教えてくれた。彼は光の届かない深海でもがきながらも、かすかに見える光に向かって進み始める。

「釣れないからってあきらめるとか、釣れてるから僻むってのは違うんですよ。染まらず模索した先にこそ本当の喜びってあると思うんです(キャスト時の映像)」

──プロフェッショナルとは、

「死ぬまで成長し続けると決意した人かなと思います。……それだと僕の場合、死ぬまで魚には出会えないのかもしれませんね(笑)」

プロボウズは過酷だと彼は語る。皆には笑われ、蔑まれ、家人には嘲笑される。”本当に好きじゃないと続けられない”、趣味の世界を極めるには一生では短すぎるのだろう。でもこの一歩一歩は、プロフェッショナルの誰もが歩んできた道のりだ。

分の悪い賭けしながら、彼はまた釣りに出かける。

(すっすもぅ~♪ジャーン)

 

この時を仕事の流儀風にするとこんな感じなのかもしれない。

明日は雷雨じゃなければベストの洗濯でもしてこようかなーと。

 
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